企業はこれまで経済性を重視し、効率を追求してきました。コールセンターも最適要員でいかに効率的に運営するかに血道をあげてきました。
しかしながら1月以降コロナウイルスの感染拡大に伴う危機回避を最優先で考えなければならない事態となりました。経済性・効率追求モードから安全性・持続性を追求するモードへの転換が急務です。
収束の見通しが立たない状況ではしばらくの間危機が続く前提で対策を打たねばなりません。
直ぐにやるべきこと
マスクや衛生用品の爆発的な需要のみならず、自粛要請に伴う生活必需品の宅配需要は大幅に増えており、中国製品のサプライチェーン分断に伴う在庫減少で多くの企業の供給力減少も相まってコールの量は想定を超える伸びが記録されています。
一方でインバウンド需要の消失によるコンタクト激減に直面している業界もあります。
共通して言えることは従来の予測が全く当たらない状況になっているということです。
ついては次の4施策は問答無用に収束迄の時限立法的に実行することを提言します。
1. リソースロード(人員負荷)を下げる
顧客の期待に沿う応対方針は一旦やめて現実的なスタッフの確保時間を基にした運営時間と要員配置に切り替えましょう。
危機対応では夜間・土日祝祭日の休業を含め、営業時間の短縮も十分許容されます。
無理のないシフトで、場合によっては固定シフトでも構いません。
サービスレベルや応答率目標の追求は一旦忘れるほうが賢明です。
2. コール/コンタクト抑止施策をとる
在庫のない商品に関する問い合わせや不要不急の問い合わせを有人対応する必要はありません。
FAQでの情報公開や、IVRのメッセージでの案内などコール抑止が可能な施策は素早く展開すべきです。
3. コンタクトチャネルを絞り込む
顧客の期待値に沿うべく展開してきたオムニチャネル政策は一旦保留し、生産性重視でチャネルの絞り込みを行いましょう。
PCメールは止める、ロイヤルカスタマー対応の電話チャネルに特化するといった取捨選択が必要です。
4. キャパシティ(有人対応余力)を上げる
経験豊富なスタッフのサービス力を最大限活用するために、対応フローを見直してスキル別の作業に分割するとか、打ち合わせや品質管理時間のシュリンケージをさらにシュリンクさせるなど有人対応時間を増やす方策を実行に移しましょう。
バックヤード要員や普段電話に出ないマネジメント要員の応援も視野に入れましょう。
全国民が危機対応モードになっている中では時間短縮もつながりにくさも許容されます。スタッフの安全と確保を最優先に考え、持続しない無理は控え、集中と選択に基づくセンター運営を実践しましょう。
これから考えること
物理的な被害のある災害とは異なり、今回のコロナ禍のように先の見通しが立たない危機対応においては抜本的に将来のセンター運用を見直さないといけません。
収束のあかつきには前述時限立法的施策は解除して、より高次元の運営に進む必要があります。安全・持続の基調は踏襲したままで、柔軟かつ高品質な運営ができるように環境整備をするのです。
ピンチをチャンスに変えるために次のポイントを改めて考えることが必要です。
1. スタッフの健康維持
コールセンターはいつの時代でも”人“が資産の組織です。安全性や持続性に基調をおくセンター運営ではCPH(1時間当たり処理件数)やATT(平均通話時間)などの”ストレス指標”ではなく、顧客の満足度や“どれだけ顧客を救ったか”指標などの“貢献価値指標“がスタッフの働き甲斐に直結します。物理的な健康維持に加えて心の健康に影響する働き甲斐により深い洞察が必要です。
将来の運営にどのような指標を用いるべきか考えてみてはいかがでしょうか?
2. ナレッジの構築
今後は決められたルールやポリシーを守り誰もが同じ対応を行うよりは、顧客1人1人を意識したパーソナライゼーションが重要です。ロイヤルティ段階を上げる対応やリテンションを確実にする“顧客貢献価値”に寄与する応対実例(通話録音、テキスト履歴等)の収集や、それらを学習材料として使用してナレッジを展開するキュレーションを考えてみてはいかがでしょうか?
3.BCP(事業承継計画)の強化
確固たる持続性に裏打ちされたセンター運営を続けるために、最適なロケーションを選び、様々な災害や危機に対応できる冗長性のある運営や組織構築を可能にするBCP強化策を考え直してみませんか?
コロナ禍はまだまだ続きます。天候不順や災害その他の外的要因による危機は少なくなることはありません。今一度計画を見直してみませんか?
4.在宅ワークの推進
今回の危機によって在宅勤務の有用性が見直されることになりました。コールセンターでは在宅は無理だ、ということにはなりません。
今回の危機において都市封鎖もされている欧米でコールセンターが休業していないのは25%程度を占める在宅ワーカーの存在によるところが大です。
日本でもこれからは在宅の環境整備と試行に注力されるべきでしょう。
RPAやAIといったテクノロジーの活用は進めつつ、顧客応対の最大の武器である“人”による応対を必要な時に効果的に使える環境を整備しておかなければなりません。
収束の見通しが立つまで日々の運営継続に神経をとがらせなければならないことはもちろんですが、アフターコロナを見据えての戦略検討にも時間を割いてください。